診療のご案内予防接種(ワクチン)・寄生虫予防

「手軽さ・簡単さ」よりも「体への負担が少ない方法」を中心にご案内

予防は伴侶動物(愛犬・愛猫)をウイルス、細菌、寄生虫、マダニなどの感染症から守るために行います。これらの予防を行うことで、伴侶動物の健康を維持できるだけでなく、他の犬や猫への感染を広げないことで流行を未然に防いだり、あるいは飼主(人)に感染する可能性がある人獣共通感染症から我々を守ってくれます。ただし、これらの予防にはわずかでありますが副作用というリスクを伴うため、個別に状況(飼育地域・環境、病気の有無)や感染症の影響(重症度、流行性)を顧みて、「個別に、適切で、無駄のない、動物と飼主のための、予防医療」が必要であると我々は考えています。そのため、当院ではできる限りの学術情報を収集し「手軽さ・簡単さ」よりも「体への負担が少ない方法」を中心にご案内しております。

予防接種(ワクチン)

犬と猫のワクチン

犬では狂犬病予防接種(狂犬病ワクチン)と複数の病気を防ぐことのできる混合ワクチンがあります。猫では混合ワクチンだけになります。

狂犬病ワクチン(犬のみ)

狂犬病予防法により、犬を取得した日(生後90日以内の犬を取得した場合にあっては、生後90日を経過した日)から30日以内に管轄する市町村長に登録が必要です。また、所有者にはその犬に年1回の予防注射を受けさせる義務があります。

コラム:なぜ狂犬病ワクチンを打たないといけないの?

混合ワクチン(犬・猫)

子犬、子猫

生後間もなくは母親の母乳からの移行抗体による防御能がありますが、次第にその効果が低下し伝染病の危険性が増します。また、ワクチン接種は複数回接種することで、感染症にかかりにくい強力な免疫力を獲得できます(ブースター効果)。そのため、4カ月齢を過ぎる時期まで、複数回の接種を行い、さらに初年の最終接種日から1年後(1歳)の接種が強い免疫力獲得に重要であると考えられています。

Q & A:子犬はワクチン接種が終わるまで他の犬と接触してはいけないのですか?

成犬、成猫

感染症に対する免疫が十分でないタイミングにワクチン接種を行います。予防する目的の感染症やワクチン抗体価の数値(犬のみ)に応じて、1年~3年(あるいはそれ以上)ごとの追加接種をお勧めしています。ワクチン接種はできるだけ多くの動物が、必要最低限の接種を行うことが重要となります。

コラム:犬のワクチンの種類はどうやって選べばよいの?

Q & A:大人の野良猫を保護しましたがワクチン接種の回数は?

不必要なワクチン接種を減らすために

不必要なワクチン接種を減らすために、当院では、「ワクチンの抗体価検査」を積極的にお勧めしています。

当院では、予防したい感染症から、自分の愛犬に合ったワクチン選択のお手伝いをしております。

あすなろ動物病院版・成犬の予防接種(ワクチン)アルゴリズム

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犬ワクチンの抗体価検査

混合ワクチンの効果が体の中にどれだけ残っているのかを判断するものです(対象:2歳以上)。重要な感染症に対するワクチンの効果(抗体価)が、接種後いつまで維持できるかは、個体差があります。ワクチンには少なからず副作用の危険性があるため、接種回数や種類の数はより少ないことが好ましいです。そのため、不必要なワクチン接種を減らすことを目的に当院では抗体価検査を取り入れています。抗体価が十分の場合には、ワクチン接種する必要がないため、ワクチン抗体価証明書をお渡ししています。ただし、抗体価が不十分の場合は、効果が十分でない可能性がある(効果が持続していることもある)ため、ワクチン接種を検討します。

Q & A:ペットホテルでワクチン接種が毎年必要と言われましたが大丈夫ですか?

寄生虫予防

フィラリア(犬糸条虫)

蚊の吸血により、フィラリアの幼虫が体内に侵入し、感染が成立します。放置しておくと成長し、半年ほどで成虫は心臓(肺動脈)に寄生します。多数が寄生すると右心不全を生じ、死に至ることがあります。フィラリア予防薬は、フィラリアの幼虫を殺し、成虫になるのを防ぐお薬です。蚊が吸血しない時期に投薬しても意味がありません。体内に侵入したフィラリアの幼虫(成虫になるには2か月はかかります)を1カ月ほど成長させて、1回の投薬で全て殺してしまうのが最も効率的な方法です。当院の地域では、蚊の活動時期が5月~10月末ですので、投薬する期間は1ヵ月遅れた、6月~11月末になります。

Q & A:猫にフィラリアの予防薬は必要ですか?

ノミ

ノミには多くの種類がいますが、犬猫に生息するほとんどはネコノミです(人にも吸血します)。野良猫が行動する広い範囲にネコノミは繁殖しているため、お散歩すると拾ってしまい、お家に連れて帰ってきてしまいます。ノミは小さく見つけにくいですが1匹見つけたら、その何十倍もの目に見えない卵や幼虫がいる可能性があるため、予防が最も重要になります。ノミに吸血されると痒みを伴います。通常、症状は軽度なことが多いですが、繰り返し吸血されることで「ノミアレルギー性皮膚炎」となり、全身的に重度の痒みを引き起こすことがあります。また、ノミは、瓜実条虫(猫や犬)や小さな細菌であるリケッチア(猫)を媒介するだけでなく、人に対しても猫ひっかき病という人獣共通感染症の原因となるバルトネラ・ヘンセラエという細菌を保有しています。

マダニ

マダニは昆虫ではなくクモの仲間に属します。マダニは家の中に住むイエダニや痒みの原因となるヒゼンダニなどの目に見えない微小ダニとは異なり、肉眼で見える大型で吸血性のダニを指します。マダニはさまざまな種類が存在し、地域、場所(牧野と林道で異なる)、季節などによって遭遇する可能性があるマダニは異なります。

厚木市七沢公園に多くられるマダニ(佐藤ら2015※1のデータに基づく)
種類 割合 季節性 生息場所 画像
フタトゲチマダニ 53% 若虫は春、成虫は夏にピーク 牧野
オオトゲチマダニ 33% 若虫・成虫ともに、夏季を除き通年 林道  
キチマダニ 10%  

※1:佐藤智美ら. 神奈川県厚木市におけるマダニ相および植生調査. Medical Entomology and Zoology. 66, 2 (2015)

当院で犬から見つかるマダニのほとんどはフタトゲチマダニであり、春から夏にかけて草むらの場所で散歩することで体に付着し吸血します。秋・冬であっても林道にはオオトゲチマダニやキチマダニは活動してます。木の生い茂った林道ような場所に行く可能性があれば年中の対策・予防が必要になります。

Q&A:犬のマダニ予防は1年中必要ですか?

マダニはさまざまな伝染病を媒介することが知られており、犬ではバベシア症を引き起こします。さらに、人に対しても最近話題になっている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)だけではなく、日本紅斑熱、ライム病、回帰熱、ダニ媒介性脳炎を媒介することが知られています。当院のある丹沢山系ではマダニはよく見かけ、お散歩する犬、野良猫などでは体についてきます。そのため、当地域では予防の必要性は他地域よりもかなり高いと考えます。

神奈川県においては、2019年末の時点でSFTSの人での発生はなく、2016年のデータでマダニからのSFTS遺伝子やマダニを運ぶニホンジカからのSFTS抗体はいずれも検出されていません。ただし、厚木市七沢公園に多いフタトゲチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニニはいずれもSFTSを媒介する可能性が知られている種類のマダニです。

日本国内で知られている野外活動に関連するマダニ媒介感染症

2023年6月26日更新

疾患名 病原体(国内) 主な発生地域 年間報告数
日本紅班熱 Rickettsia japonica 千葉県以西の
太平洋岸
460例(2022年)
重症熱性血小板減少症候群
(SFTS)
ブニヤウイルス科
フレボウイルス属
西日本 118例(2022年)
ライム病 Borrelia garinii
Borrelia afzelii
北海道、
東日本山間部
14例(2022年)
回帰熱 Borrelia miyamotoi 北海道 2013年2例
ダニ媒介性脳炎 フラビウイルス科
フラビウイルス属
北海道 1993年1例
2016年1例
2017年2例
2018年1例
エゾウイルス感染症
(エゾウイルス熱)
ナイロウイルス科 北海道 2019年1例
2020年1例
オズウイルス感染症 オルソミクソウイルス科
トゴトウイルス属
茨城 2022年1例

フィラリア・ノミ・マダニのオールインワン予防薬

これらフィラリア、ノミ、マダニに加えおなかの虫をまとめて駆除できるオールインワン薬(内服薬)もあります。オールインワン薬には、良い点と悪い点がありますので、生活スタイルや環境・体調に合わせて、必要なものだけの予防をお勧めいたします。

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悪い点

良い点
●外用薬よりも身体への薬剤の影響が強くなる
●慢性疾患やアレルギー、成長期や高齢では使用できないこともある
●昆虫に吸血されないと作用しない
●皮膚につける薬が苦手な場合、使いやすい
●飲み薬1つなので、とても簡単

1年間の予防スケジュール

当院で推奨する1年間の予防接種・検査のスケジュールの目安です。ご参考にしてください。

時期 動物種 内容 回数 説明
3月~6月 フィラリア(犬糸状虫)予防前の血液検査 年1回 フィラリア予防薬を安全に投薬できるか、 血液検査でフィラリア感染の有無を確認しています。
3月~6月 狂犬病予防接種 年1回 日本で犬を飼育するには、法律で義務付けられているため、必ず接種が必要です。
コラム:なぜ狂犬病ワクチンを打たないといけないの?
特に
5月~11月
犬・猫 ノミ・マダニ予防 年中 生活スタイルに合わせて、予防期間・薬を決定します。外に出る動物には原則必要です。いずれも人獣共通感染症を媒介します。

●ノミ
・野良猫が多い環境では要注意です
●マダニ
・当院のある丹沢周辺では要注意です
・散歩後のブラッシングも効果的です
6月末~11月末 フィラリア予防 毎月1回 フィラリアが心臓に寄生するのを防ぐために6月末~11月末まで 毎月1回 お薬を飲ませます。皮膚につける外用薬もあります。

コラム