診療のご案内ワクチン・予防接種

犬・ワクチン種類の選択をどうするか?

公開日:2013年11月30日
最終更新日:2020年3月10日

当院では、図1で示すように5種混合ワクチン『ノビバック DHPPi』と7種混合ワクチン『ノビバック DHPPi+L』の接種が可能です。では、どちらのワクチンを選択すればよいでしょうか?

図1:DHPPi(5種)/DHPPi+L(7種)のワクチンで予防できる病気

※2016年4月1日~2019年3月31日までの当院での接種状況です。
残りの10%の犬ではレプトスピラ単独のワクチンを接種しています

PDFで表示する

レプトスピラ症予防の必要性により5種か7種かを選択します

レプトスピラとは?

レプトスピラは人獣共通伝染病の細菌(スピロヘータ―)で、人や犬以外にも多くの哺乳類に感染します。ドブネズミなどが保菌し、その尿中に排泄されることで、保菌動物の尿で汚染された土壌から口、皮膚を介して人や犬に感染します。このレプトスピラの種類は多く、250型以上の血清型が知られています[1]

人のレプトスピラ症 ~犬は人の主要な感染源ではないです~

人では2016年までの過去10年間で年間15~42例の発生件数が国内で報告されています[2]。感染機会は主に汚染された河川での遊泳などのレジャー活動、次いで農作業などですが、東京都ではネズミとの接触が最も多い感染源となっています[2-5]。一方で、犬が人への感染源になることはきわめて稀であり、犬との接触が原因と疑ったケースは全体の約1%(3/251例)に過ぎず、いずれも犬からの感染を証明できていません[2]。海外の報告でも、レプトスピラの犬と濃厚に接触した集団(スイス91人、アメリカ117人)で感染者はいなかったと報告しています[6,7]。したがって、少なくとも人に対して犬はレプトスピラの感染源になる可能性は低いことが分かります。地域で考えた場合、人では国内での発生の半数以上は沖縄で報告されており、2016年までの過去10年間で3件と少ないです[1,2,8]。人のレプトスピラ症は、急性熱性疾患であり、感冒様(風邪の様な)症状のみで軽快する軽症型から、黄疸、腎機能障害、出血傾向などの重症型の症状を示すなどさまざまです。

犬のレプトスピラ症 ~お住まい地域の流行を知る~

犬でもレプトスピラの発生状況は地域により異なります。犬のレプトスピラ病と診断した場合、7つの血清型に関しては家畜伝染病予防法の届出伝染病に指定されており、農水省はこの届出を基に毎月発生数を発表しています(http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/kansi_densen/kansi_densen.html 別ウィンドウで表示)。過去10年(2010年~2019年)のデータについて当院でまとめたのが図2です。 レプトスピラは西日本を中心に発生が多く、関東でも少数ながら発生していることが分かります。一方、甲信越・東北地方ではほとんど発生していません。神奈川県では2019年7月に1例が届出報告されましたが、過去10年間では3例です。もちろん、診断(血清型診断が必要)がつかずに死亡しているケースや、届出義務がある血清型以外のレプトスピラ病(「ヘブドマディス」)は含まれませんので、実際の発生数はもっと多いことが予想されます。しかし、動物病院数が県内だけで約1000施設あることを考えると、神奈川県内では遭遇する機会は比較的少ない病気と言えます。犬に感染した場合も多くは無症状ですが[9]、重症化すると血清型により特徴が異なる可能性はありますが黄疸、出血、腎障害など多様な症状を示し、この場合死亡率は高く国内では53.2%と報告されています[10,11]。感染の時期は約半数が9月に発生し、90%以上は8-11月に集中するとの報告もあることから[2]、夏から秋にかけては特に注意が必要でしょう。

図2:国内における犬レプトスピラの発生状況(あすなろ動物病院2020年作成)

犬におけるレプトスピラの発生状況

PDFで表示する

犬のレプトスピラワクチンの注意点 ~過剰な期待はしない方が良い~

レプトスピラを予防するのであれば、どの血清型に対して効果を期待するのか飼主の方は把握しておく必要があります。先に述べたようにレプトスピラには多くの種類(血清型)が存在しますので、流行している(感染を予防したい)血清型とワクチンの血清型が一致していなければワクチンの効果は期待できません。2017年に大阪府内で発生した犬レプトスピラ症集団発生事例では、11例が感染し9例が死亡しましたが、死亡した犬のうち6例はレプトスピラワクチンを接種していました[12]。犬では地域によりどの血清型が流行しているかの情報は多くありませんが、過去の神奈川県行政の調査では感染例はいずれも「カニコーラ」でした[13]。また、製薬企業調査ではありますが「カニコーラ」以外では「イクテロヘモラジー」の陽性例も見られます(京都微研:キャナイン-レプト5パンフレットより)。『ノビバック DHPPi+L』で防御できる血清型はこの2種類ですので、この地域内であればこのワクチンでレプトスピラを予防できる可能性は高いと考えます。他県で実施された調査では、「カニコーラ」は少なく、「ヘブドマディス」、「オーストラリス」、「オータムナリズ」が多数を占めたとの報告もあります[11]。これらの情報は十分ではないため、今後の調査状況を見守っていく必要はありそうですが、少なくとも遠方(神奈川県外)への旅行でアウトドア(特に、川遊びなど河川に行く)をしたり、ドッグランなど多くの動物が集まる場所で遊ばせる機会があるのならば、『ノビバック DHPPi+L』ではレプトスピラを予防できない可能性が出てきます。そのような場合は、他のレプトスピラの血清型を含んだ単独のワクチンも当院には常備していますので、獣医師にご相談ください。ただし、全ての血清型に対応したワクチンはない(図3)ため、飼主の方はレプトスピラワクチンに過剰に期待しないようにしましょう。

図3:国内で入手できるレプトスピラワクチン(2020.2現在、あすなろ動物病院調べ)

犬のレプトスピラ症のワクチン

PDFで表示する

ワクチン接種は副作用を生じる可能性は少ないですがあります。この地域ではレプトスピラの発生数が少ない事だけでなく、レプトスピラの予防には毎年ワクチン接種が必要となる(すなわち、接種回数が増え、確率的に副作用が生じる可能性は高まる)事を合わせて考えると、当院ではこの地域においてレプトスピラ病に対するワクチン接種の必要性は高くないと考えています。ただし、旅行などで流行地域へ移動される場合には必要性が高まりますので、飼主の生活スタイルに合わせた選択をしてください。ご不明な点がございましら、お気軽にご相談ください。

参考文献

  1. 小泉信夫. レプトスピラ症の最新の知見. モダンメディア. 52 (10): 299-306, 2006.
  2. 国立感染症研究所 <特集>レプトスピラ症 2007年1月~2016年4月. IASR. 37 (6), 2016.
  3. Koizumi N et al. Human leptospirosis cases and the prevalence of rats harbouring Leptospira interrogans in urban areas of Tokyo, Japan. J Med Microbiol. 58: 1227-30, 2009.
  4. Kang YM et al. Leptospirosis infection in a homeless patient in December in Tokyo: a case report. J Med Case Rep. 9: 198, 2015.
  5. Mutoh Y et al. Leptospirosis Cases in the Tokyo Metropolitan Area, Japan. Jpn J Infect Dis. 70: 669-671, 2017.
  6. Barmettler R et al. Assessment of exposure to Leptospira serovars in veterinary staff and dog owners in contact with infected dogs. J Am Vet Med Assoc. 238: 183-8, 2011.
  7. Guagliardo SAJ et al. Despite high-risk exposures, no evidence of zoonotic transmission during a canine outbreak of leptospirosis. Zoonoses Public Health. 66: 223-231, 2019.
  8. 厚生労働省/国立感染症研究所. レプトスピラ症(2003年11月5日~2005年4月7日現在). IDWR. 2005.
  9. 片岡靖. 人畜共通感染症(ズーノーシス)―犬猫における細菌性ズーノーシス-. 日本臨床微生物学雑誌. 24 (2) : 93-98, 2014.
  10. Koizumi N et al. Multiple-locus variable-number tandem repeat analysis and clinical characterization of Leptospira interrogans canine isolates. J Med Microbiol. 64 (Pt 3): 288-94, 2015.
  11. Koizumi N et al. Molecular and serological investigation of Leptospira and leptospirosis in dogs in Japan. J Med Microbiol. 62 (Pt 4): 630-6, 2013.
  12. 佐伯潤ら. 大阪府内で発生した犬レプトスピラ症集団発生事例. 日獣会誌. 72: 167-171, 2019.
  13. 石岡慎也ら. 神奈川県動物保護センター管内における飼育動物を対象とした動物由来感染症疫学調査. 平成 23 年度日本獣医公衆衛生学会(関東・東京). 2011.

関連ページ