診療のご案内(予防医療・寄生虫予防)マダニ
この地域では、人にとっても注意が必要な外部寄生虫です
マダニは昆虫ではなく、クモの仲間に属する節足動物で、肉眼で確認できる比較的大型の吸血性ダニです。家の中に生息するイエダニや、かゆみの原因となるヒゼンダニなどの微小なダニとは異なり、屋外環境で動物に付着して吸血します。
マダニは単なる皮膚トラブルの原因にとどまらず、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)など、動物および人に感染するさまざまな病原体を媒介することが知られています。
丹沢周辺を含む神奈川県の山間部では野生動物の生息密度が高く、森林・草地・河川敷だけでなく、住宅周辺の緑地や公園でもマダニが確認されています。
当院では、生活環境(散歩コース、登山・キャンプなどの屋外活動)や個々の特徴(年齢、体質、基礎疾患、薬剤への反応)を踏まえ、過不足のない予防計画をご提案しています。
生活環
マダニは成長や産卵のために脊椎動物の血液を必要とし、一生の間に3回吸血を行いながら、幼ダニ→若ダニ→成ダニへと成長します(図:マダニの生活環)。幼ダニは約1 mmと非常に小さく、肉眼では見つけにくい大きさです。それぞれの成長段階で異なる動物に寄生するため、感染症を運ぶ可能性があります。
種類によって差はありますが、一般的には春から初夏にかけて若ダニと成ダニの活動が活発になり、秋には幼ダニの活動が増加します。この時期には、人やペットを含むさまざまな動物へ寄生する機会が多くなります。そのため、マダニは「見つけて取り除く」よりも「付着させない予防」が重要になります。
図:マダニの生活環(フタトゲチマダニのスケッチ)

疫学
マダニにはさまざまな種類が存在し、地域や環境(草地・牧野・林道など)、さらには季節によって遭遇しやすい種類が異なります。
厚木市七沢公園に多くられるマダニ(佐藤ら2015※1のデータに基づく)
| 種類 | 割合 | 季節性 | 生息場所 | 画像 |
|---|---|---|---|---|
| フタトゲチマダニ | 53% | 若ダニは春、成ダニは夏にピーク | 牧野 | ![]() |
| オオトゲチマダニ | 33% | 若ダニ・成ダニともに、夏季を除き通年 | 林道 | |
| キチマダニ | 10% |
※1:佐藤智美ら. 神奈川県厚木市におけるマダニ相および植生調査. Medical Entomology and Zoology. 66, 2 (2015)
当院で犬から見つかるマダニの多くはフタトゲチマダニであり、春から夏にかけて草むらを散歩する際に体へ付着し、吸血を行います。
一方、秋から冬であっても林道ではオオトゲチマダニやキチマダニの活動が確認されています。そのため、木々が生い茂った林道や山道へ出かける機会がある場合には、季節を問わず予防対策を行うことが重要です。
人獣共通感染症
マダニはさまざまな感染症を媒介することが知られており、犬ではバベシア症の原因となります。さらに人に対しても、近年注目されている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)だけでなく、日本紅斑熱、ライム病、回帰熱、ダニ媒介性脳炎などを媒介することが知られています。
当院のある丹沢山系周辺ではマダニは比較的身近な存在であり、散歩中の犬や野外で生活する猫に付着している例を日常的に認めます。そのため、この地域ではマダニ予防の必要性は他地域と比べても高いと考えられます。
神奈川県では2025年に、人および猫でSFTS感染が推定される症例が初めて確認されました。SFTSはこれまで主に中部地方以西で発生する疾患と考えられていましたが、近年は発生地域が東日本へ拡大する傾向がみられます。厚木市七沢公園周辺に多く生息するフタトゲチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニはいずれも、SFTSウイルスを媒介する可能性が報告されているマダニ種です。なお、すべてのマダニが感染症を保有しているわけではありませんが、マダニに咬まれる機会を減らすことが最も重要な予防となります。
日本国内で知られている野外活動に関連するマダニ媒介感染症
2025年11月9日更新
| 疾患名 | 病原体(国内) | 主な発生地域 | 年間報告数 |
|---|---|---|---|
| 日本紅斑熱 | Rickettsia japonica | 主に千葉県以西の 太平洋岸 | 506例(2024年) |
| 重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) | フェヌイウイルス科(Phenuiviridae) バンダウイルス属(Bandavirus) | 中部地方以西 (神奈川県が最東) | 122例(2024年) |
| ライム病 | Borrelia garinii, B. afzelii | 主に北海道、 東日本山間部 | 25例(2024年) |
| 回帰熱 | Borrelia miyamotoi | 主に北海道 | 11例(2024年) |
| ダニ媒介性脳炎 (TBE) | フラビウイルス科 フラビウイルス属 | 北海道 | 1993年1例 2016年1例 2017年2例 2018年1例 2024年2例 |
| エゾウイルス感染症 (エゾウイルス熱) | ナイロウイルス科 オルソナイロウイルス属 | 北海道 | 2014年1例 2016年1例 2017年2例 2019年1例 2020年2例 |
| オズウイルス感染症 | オルソミクソウイルス科 トゴトウイルス属 | 茨城 | 2022年1例 |
予防と対策
マダニ対策では、「見つけて取り除く」ことよりも、そもそも体に付着させないことが最も重要です。
マダニは草むらや林道などに生息し、散歩中に気づかないうちに犬や人の体へ付着します。特に顔まわりや足先などは付着しやすいため、散歩後にはブラッシングや体表の確認を行いましょう(図:マダニを付着させないための対応)。
また、犬だけでなく飼い主自身も長袖・長ズボンなど露出を減らした服装を心がけることで、付着のリスクを下げることができます。木々が生い茂った場所や草丈の高い場所へ入る際には注意が必要です。
外部寄生虫予防薬(外用薬の塗布、またはオールインワン外部寄生虫予防薬の投薬を毎月1回)はマダニの付着そのものを完全に防ぐものではありませんが、吸血したマダニを駆除することで感染症リスクを低下させます。地域の環境や生活スタイルに合わせて、継続的な予防を行うことが大切です。
付着してしまった場合
マダニを見つけた場合は、無理に引き抜いたりせず、決して潰さないよう注意してください。
マダニは体液を介して感染症を媒介することがあり、特にSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は血液や体液への接触によって感染するリスクがあるとされています。
除去する際は素手で触れず手袋を着用し、体を圧迫しないよう皮膚に近い位置からゆっくり取り除くことが重要です。当院では、口器を残しにくく安全に除去できる専用器具として The O'TOM TICK TWISTER® の使用を推奨しています。
アルコールや殺虫剤をかけたり、火であぶるなどの方法は、マダニを刺激して体液が皮膚側へ移行する可能性があるため推奨されていません。
除去後は手指や接触部位を十分に洗浄し、必要に応じてアルコールや次亜塩素酸系消毒剤による消毒を行ってください。
また、付着したマダニの数が多い場合や、除去が難しい場合には動物病院を受診してください。

