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症例紹介8:犬>腫瘍>肝臓>肝細胞がん

犬の原発性肝臓腫瘍(肝細胞がん)

キーワード犬、腫瘍、肝臓腫瘍、肝細胞がん、造影CT検査、肝酵素の上昇

「あすなろ動物病院」では、多くの飼い主様に病気のことを理解していただくために、来院されたワンちゃん・ネコちゃんの病気をホームページで解説しています。
この記事と似たような病気でお困りの方は、お気軽に当院までお問い合わせください。

このページでは、「犬の原発性肝臓腫瘍(肝細胞がん)」の症例を紹介しています。「お腹の上方(上腹部)が大きくなってきた、お腹の中を触れると大きな腫瘤がある」という症状や「高齢犬の血液検査で肝臓の数値が高い」で疑われる病気の1つです。

かかりやすい動物

  • まれ
  • 犬:原発性<転移性、猫:原発性>転移性
  • 犬で最も多い原発性肝臓腫瘍である肝細胞癌の場合:平均11歳(80%が10歳以上)、ミニチュア・シュナウザーや雄に好発する

患者さまの紹介

犬、雑種、15歳、去勢雄、体重12kg

来院理由:
体重が減少傾向、1カ月前の健康診断で肝臓の数値が高かったため再検査を希望。

来院時の様子と診察所見

身体診察

明らかな異常は認めませんでした。

血液検査

ALT 235 U/L[基準値:10~100]、ALP 947 U/L[基準値:23~212]、GGT 242 U/L[基準値:~7]と基準値よりも高く、1ヵ月前と比べてもALP、GGTは上昇傾向を認めました。

腹部超音波検査

左肝臓領域に最大7.6cmの腫瘤を認めました(図:矢印の周囲より白色に見えるのが腫瘍)。

以上から、肝臓腫瘍の可能性が高いと判断しました。根治治療には手術が必要となることから、飼主様と相談し、全身麻酔を行い、手術計画を立てるためのCT検査と腫瘍のタイプを調べるために細胞検査を予定しました。

CT検査

造影剤を使用して、同じ部位を複数のタイミングでCT撮影すること(ダイナミックCT検査)で肝臓に流入する動脈、門脈、静脈と腫瘍との位置関係が分かり、手術計画が立てやすくなります。また、造影剤の濃くなるタイミングによって、腫瘍のタイプのおおまかな予想をつけることができます。検査所見から、肝臓の内側左葉に腫瘍が発生し、肝細胞がんの可能性が最も高いと考えました(図:3相のダイナミックCT検査による肝臓腫瘍の描出)。また、他の部位に転移など重大な問題は認めませんでした。

  • 動脈相
  • 門脈層
  • 平衡相

細胞診検査

腫瘤を注射針で刺し細胞を採取しました(細胞診)。病理診断医から「肝細胞がん」の可能性が最もと高いとの診断を得ました。

画像検査と細胞診検査の結果から、内側左葉に発生した「肝細胞がん」の可能性が最も高いことが考えられました。犬の肝臓は、複数の葉(よう)からなり(図:犬を仰向けにした時の肝臓のイメージ)、そのうち1つの葉だけに発生していることから、部分肝葉切除術を計画しました。

手術と経過

術式:内側左葉部分肝葉切除術

腫瘍のある内側左葉に流入する、門脈、動脈、静脈をできるだけ基部に近い位置で結紮し、腫瘍から十分な距離を確保して腫瘍を含む内側左葉を切除しました。肝臓は非常に血管が発達している組織であり出血が問題となることもありますが、大きな出血は認めませんでした。手術後も順調に回復し、手術後3日目に退院しました。摘出した腫瘤の組織診断名は「肝細胞がん」でした。このワンちゃんは、この時点で15歳を過ぎおり、その後、肝臓腫瘍の新たな発生も疑われましたが1年半生存しました。

まとめ

原発性肝臓腫瘍は高齢犬で発生しやすく、腫瘍が小さければ無症状のことも多いですが、腫瘍が大きくなると、肝機能低下や他の臓器を圧迫し機能障害を引き起こすこともあります。肝臓は動脈、静脈、門脈の重要な血管が流入し血管が豊富であるため、腫瘍が複数の葉をまたがっていたり、巨大になると手術は非常に難しくなってきます。そのため、あらかじめCT検査による手術のシミュレーションを行い解剖の理解を深めることが大切だと考えています。当院でもCTを導入するまでは技術的に手術が困難であったケースもありましたが、CT検査のおかげで対応が可能になった症例が増えてきていることを実感しています。

ご紹介したワンちゃんと同じような症状でお悩みの場合は、あすなろ動物病院にご相談ください。

当院の業績

  1. 小島健太郎、小島早織、江成暁子、内海恵利、平松栞肝細胞癌皮膚転移の犬1例第29回中部小動物臨床研究発表会 (2021)

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