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症例紹介7:犬>腫瘍>膀胱腫瘍>移行上皮がん

犬の膀胱腫瘍(移行上皮がん)

キーワード犬、腫瘍、膀胱腫瘍、移行上皮がん、排尿困難(尿が出ずらい)、膀胱尿道全摘出術

「あすなろ動物病院」では、多くの飼い主様に病気のことを理解していただくために、来院されたワンちゃん・ネコちゃんの病気をホームページで解説しています。
この記事と似たような病気でお困りの方は、お気軽に当院までお問い合わせください。

このページでは、「犬の膀胱に発生した腫瘍(移行上皮がん)」の症例を紹介しています。「尿が出づらい(排尿困難)」、「血尿が混じる」という症状で疑われる病気の1つです。

かかりやすい動物

  • 犬ではまれ(猫では極めてまれ)
  • 中高齢(平均:約10歳)
  • 雌>雄、避妊・去勢を行った犬の方が多い
  • スコティッシュ・テリア

患者さまの紹介

犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、12歳、雌(未避妊)、体重6.6kg

来院理由:
他の病気による定期健診。

来院時の様子と診察所見

身体診察

明らかな異常は認めませんでした。

腹部超音波検査/CT検査

膀胱の一部(尖部)に約1.3cmの腫瘤を認めました(図の白矢印)。

尿検査/細胞学的検査

肉眼的に異常はありませんが潜血反応を認めました。麻酔下で、カテーテルを用いて細胞を繰り返し回収しましたが、がん細胞の確定的な診断はできませんでした。

検査結果から、膀胱がんの確定的な診断を得られなかったため、腫瘤部を含む膀胱部分切除術を行いましたが、病理組織検査の結果「膀胱移行上皮がん」との診断を得たことと、十分にがん細胞が取り切れていない可能性があることから、飼主様の意向(がんの根治、排尿機能の消失の容認)を踏まえて膀胱尿道摘出術を実施することにしました。

手術と経過

術式:膀胱尿道全摘出術

膀胱と尿道を一括して切除したあと、避妊手術を行い、残っている膣と尿管つなげ、新たな尿路(尿の通り道)を形成しました。手術後に一時的な腎臓臓機能の低下が見られましたが、日ごとに改善しました。調子が良くなってからは、ミトキサントロンという抗がん剤を計6回、抗腫瘍効果のある非ステロイド性消炎鎮痛薬ピロキシカムを手術後1年間投薬しました。手術後、3年半の間、再発や転移は認めませんでしたが、急性腎障害で死亡しました。この手術は膀胱と尿道が無くなるために、排尿は膣部から尿が漏れる失禁が持続します。そのため、排尿の管理はオムツをパッドにしてあてがっていましたが、動物も受け入れ、飼主様が上手く管理されていたため、大きな問題にはなりませんでした。

まとめ

膀胱がんは、持続する血尿あるいは排尿困難などの症状で気づかれることが多い病気ですが、ご紹介したワンちゃんのように無症状で偶発的に発見されるケースもあります。がんが膀胱の先端に発生すれば、膀胱部分切除術で根治できる可能性はあるものの、一般的に膀胱三角部と呼ばれる尿管や尿道が集まる膀胱の後部に発生しやすく、再発や転移性が高い特徴のため、膀胱尿道全摘出術および尿路変更術でないと根治とならないケースが多いです。一方で、膀胱尿道全摘出術は自力で排尿する機能が消失してしまうため、動物の性格や体格、飼主さまの看護する負担なども考慮して手術法を決定する必要があります。このワンちゃんは根治を目指して最大限の治療を行いましたが、当院ではこのような根治的手術だけではなく緩和的手術、手術を行わない化学療法およびその組み合わせなど様々な選択肢を飼主様に提示し、個別に相性の良いと思われる治療の支援を心がけております。

ご紹介したワンちゃんと同じような症状でお悩みの場合は、あすなろ動物病院にご相談ください。

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