症例紹介
症例紹介2:犬 > 腫瘍 > 肥満細胞腫
犬の皮膚に発生した腫瘍(肥満細胞腫)
キーワード犬、腫瘍、肥満細胞腫、最も多い皮膚の悪性腫瘍
「あすなろ動物病院」では、多くの飼い主様に病気のことを理解していただくために、来院されたワンちゃん・ネコちゃんの病気をホームページで解説しています。
この記事と似たような病気でお困りの方は、お気軽に当院までお問い合わせください。
このページでは、「犬の皮膚に発生した腫瘍(肥満細胞腫)」の症例を紹介しています。肥満細胞腫は犬の皮膚腫瘍で最も多く「皮膚のしこりが次第に大きくなってきた」という症状で疑われる病気の1つです。
かかりやすい動物
- 中年(平均9-10歳)に多いが若齢でもみられる
- ブルドッグ系統(パグ、フレンチ・ブルドッグなど)、ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、コッカー・スパニエール、シュナウザーなど
- 性別は関連がない
患者さまの紹介
犬、トイ・プードル、10歳、雄、体重4.6kg
- 来院理由:
- 左の胸にしこりができた。
来院時の様子と診察所見
身体診察
右体側部の皮膚に3週間前は1.5cmであったしこり(結節)が、2.5㎝まで大きくなり、表面は赤くなっていました(紅斑)。また、包皮の根元付近にも小さな結節を0.6cm認めましたが、こちらは大きさの変化はありませんでした。
細胞診検査
腫瘤を注射針で刺し細胞を採取しました(細胞診)。いずれのしこりとも「肥満細胞腫」と診断しました。最も所属リンパ節の可能性が高いと考えられた鼠経リンパ節の腫れはなく、細胞診による評価は十分にできませんでした。
細胞診の結果は、「肥満細胞腫」というがんを疑いました。しこりは複数あり、成長も早く大きさも比較的大きいものであったため、肥満細胞腫の中でも悪性度が高い可能性を考慮して、腫瘍の周囲3cmおよび底部にある筋膜を一括して切除すること、所属リンパ節と考えられる左右の鼠経リンパ節の摘出を計画しました。また、脾臓や肝臓に関しても、細胞診の追加検査を予定しました。
手術と経過
術式:腫瘍摘出術(側方3cmの皮膚、深部筋膜の一括切除)および所属リンパ節摘出術
腫瘍の周囲3cmおよび底部にある筋膜を一括して切除し、肉眼的に正常である左右の鼠経リンパ節も同時に摘出しました(図:白矢印が腫瘤)。脾臓および肝臓の針生検を実施しました。病理組織検査の結果、「肥満細胞腫(3段階分類:グレード1~2、2段階分類:低グレード)」と診断され、左右鼠経リンパ節には転移を認めたため、ステージ3と評価しました(図:肥満細胞腫のステージ分類)。脾臓や肝臓からは肥満細胞腫の転移を疑う細胞は採取されませんでした。しかし、リンパ節転移を認め、再発や転移の可能性が高いと考え、手術後、ビンブラスチンという抗がん剤で治療を行いました。抗がん剤による治療は副作用を認めず、予定回数を終えました。その後、再発や転移を疑う症状は認めていません。
皮膚肥満細胞腫のグレード分類
病理医が決定する(※病理医によって判定が異なる可能性がある)

皮膚肥満細胞腫のステージ分類
各種検査により主治医が決定する
ステージ | |
---|---|
1 | 皮膚に単一の腫瘤がみられるが、所属リンパ節の転移はない |
2 | 皮膚に単一の腫瘤がみられる、さらに、所属リンパ節の転移がある |
3 | 周囲へ腫瘍が広がる、もしくは、腫瘍が多発している(所属リンパ節の転移は関係なし) |
4 | 遠隔転移がみられるか、再発がみられる |
まとめ
肥満細胞腫は犬の皮膚に最も多くみられる腫瘍です。皮膚の腫瘍を摘出することは、技術的に難しくはありません。しかし、慎重な手術前計画を立てないと、時として再発や転移の危険性を高めてしまうことがあります。皮膚の肥満細胞腫は、皮膚→所属リンパ節→脾臓・肝臓→骨髄、の順に進行することが多いのが特徴です。そのため、目の前の腫瘍だけでなく、次に進行すると予想される臓器やその可能性を見積もり、その動物に応じた手術、手術後の補助治療などの治療計画を立てた方がよいと思われます。
ご紹介したワンちゃんと同じような症状でお悩みの場合は、あすなろ動物病院にご相談ください。
当院の業績
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小島健太郎、小島早織、内海恵利、江成暁子 大腿二頭筋に発生した犬の肥満細胞腫の1例
獣医麻酔外科学雑誌. 51:13-15 (2020)
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伊東輝夫、小島健太郎 Veterinary Oncology編集委員会編『腫瘍診療ガイド』 第4回 犬の肥満細胞腫
Veterinary Oncology No17. 5: 118-135 (2018)
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伊東輝夫、小島健太郎 Veterinary Oncology編集委員会編『腫瘍診療ガイド』 第5回 犬の肥満細胞腫(2)
Veterinary Oncology. No18. 5: 99-118 (2018)
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小島健太郎、小島早織、内海恵利、江成暁子、宗像理沙 大腿二頭筋に発生した肥満細胞腫の犬1例 第27回中部小動物臨床研究会発表会 (2018)