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症例紹介9:犬>腫瘍>副腎>副腎皮質腺癌

犬の副腎腫瘍(副腎皮質腺がん)

キーワード犬、腫瘍、副腎腫瘍、副腎皮質腺がん、副腎皮質機能亢進症、胆嚢粘液嚢腫

「あすなろ動物病院」では、多くの飼い主様に病気のことを理解していただくために、来院されたワンちゃん・ネコちゃんの病気をホームページで解説しています。
この記事と似たような病気でお困りの方は、お気軽に当院までお問い合わせください。

このページでは、「犬の副腎腫瘍(副腎皮質腺がん)」の症例を紹介しています。「飲水量が多い」、「尿が多くうすい」、「食欲がありすぎる」、「お腹が出てきた」という症状で疑われる病気の1つです。

かかりやすい動物

  • 犬、猫とも比較的まれ(偶発的にCT検査で見つかることもある)
  • 中高齢(平均:犬10歳)

患者さまの紹介

犬、トイ・プードル、10歳、去勢雄、体重6.6kg

来院理由:
最近、飲水量と食欲が増加し、お腹が出てきた。

来院時の様子と診察所見

身体診察

腹囲膨満(お腹の腫れ)を認めたが、腫瘤などは蝕知できませんでした。

血液検査

肝酵素(ALT、ALP、GGT)および総コレステロールの上昇を認めました(表)。追加検査で副腎機能を評価するACTH負荷試験を行い、負荷前 9.0 μg/dL → 負荷後 >50.0 μg/dL(基準値:≦25 μg/dL)と負荷後に高値を認めました。

項目 結果 単位 基準値 評価
ALT 670 U/L 18~93
ALP 1306 U/L 15~162
GGT 222.3 U/L  ~9.0
総コレステロール 587 mg/dL 132~344

腹部超音波検査

左副腎(図の丸内:最大短径3.9 mm)と比べて腫大した右副腎(図の矢印:同21.5 mm)を認めました。また、右副腎は内部に一部高エコー(白い部分)を認めました。

  • 正常な左副腎
  • 腫大した右副腎

以上の検査結果から、副腎皮質機能亢進症を伴なう副腎腫瘍と診断しました。下垂体腫瘍が原因の副腎皮質機能亢進症(下垂体性副腎皮質機能亢進症)の除外、進行評価・転移有無の確認、手術計画を目的にCT検査を実施しました。

CT検査

右副腎は21mmに腫大し、一部石灰化を認めました。また、隣接する後大静脈内に腫瘍の一部が浸潤し腫瘍塞栓(腫瘍が血管内に詰まった状態)を認めました。下垂体に腫大はなく、他の臓器にも明かな転移を認めませんでした。

CT検査の結果から、腫瘍は右副腎だけではなく後大静脈内に広がっていることから、右副腎摘出術および後大静脈腫瘍栓の摘出を計画しました。

手術と経過

術式:右副腎摘出術+後大静脈腫瘍塞栓摘除術

副腎は後大静脈、腹大動脈と腎臓に隣接しています。そのため、副腎は多くの動脈の小さな分枝から血液供給を受けており、出血のコントロールが重要になります。手術では、副腎に流入する小さな血管を1つ1つ丁寧に手術用の電気メスあるいは縫合糸を用いて処理しました。最後に、腫瘍の一部が血管内に浸潤し後大静脈まで入り込んでいたため後大静脈の血行を一時的に遮断し、血管を切開し右副腎腫瘍とともに腫瘍塞栓を摘出しました(図:矢印が腫瘍)。また、副腎皮質機能亢進症で生じやすい胆嚢粘液嚢腫を形成していた胆嚢も同時に摘出しました。副腎皮質機能亢進症では、糖尿病、膵炎、血栓塞栓症などの併発症を合併しているケースが多いことから、一般的には手術関連の死亡率は20%と報告されています。そのため、手術中だけでなく、手術後の管理にも注意が必要になりますが、このワンちゃんは合併症もなく順調に回復しました。病理組織検査の結果は「副腎皮質腺癌」でした。手術後からは、飲水量も減り、お腹の腫れも目立たなくなり、毛並みも良くなりました。手術して3年4か月後に副腎腫瘍と関連のない呼吸不全で亡くなりましたが、それまで再発は認めませんでした。

まとめ

犬の内分泌疾患で比較的多い副腎皮質機能亢進症(別名、クッシング症)のうち、副腎腫瘍が原因であることは10-15%と少ないです。副腎は多くの小さな動脈が流入しているため摘出の難易度が比較的高いだけでなく、合併症の多い副腎皮質機能亢進症の影響で、手術中・手術後の死亡率が高い腫瘍の1つです。また、近年では、画像検査機器の向上により超音波やCT検査により、症状のない副腎腫瘍(非機能性副腎腫瘍)を見つけることも増えてきたため、手術の決断が難しい病気です。当院では、動物の状況(年齢、症状、併発症の有無、がんの可能性)を十分に見極めたうえで、手術を行った方が良いのか、あるいは、手術せずに経過観察した方が良いのかを飼主様と一緒に考えて治療に取り組んでおります。

ご紹介したワンちゃんと同じような症状でお悩みの場合は、あすなろ動物病院にご相談ください。

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