症例紹介
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犬の上皮小体腫瘍(上皮小体腺腫)
キーワード犬、腫瘍、上皮小体腫瘍、上皮小体腺腫、高カルシウム血症、膵炎
「あすなろ動物病院」では、多くの飼い主様に病気のことを理解していただくために、来院されたワンちゃん・ネコちゃんの病気をホームページで解説しています。
この記事と似たような病気でお困りの方は、お気軽に当院までお問い合わせください。
このページでは、「犬の上皮小体腫瘍(上皮小体腺腫)」の症例を紹介しています。「(血液中のカルシウム濃度が上昇により)飲水量が増加する」という症状で疑われる病気の1つです。
かかりやすい動物
- 犬ではまれ、猫では極めてまれ
- 高齢(平均:犬11歳、猫13歳)
- キースホンド
患者さまの紹介
犬、ミニチュア・ダックスフンド、10歳、雄、体重6.6kg
- 来院理由:
- 下痢と嘔吐の症状があり、他の動物病院で急性膵炎と診断されるが改善しない。
来院時の様子と診察所見
身体診察
明らかな異常は認めませんでした。
血液検査
膵炎の指標である膵特異的リパーゼの上昇、腎臓機能の指標であるクレアチニンの軽度上昇、および高カルシウム血症(血清カルシウム15.8 mg/dL[基準値:7.9~12.0]、イオン化カルシウム2.46 mmol/L[基準値:1.24~1.43])を認めました。追加検査でカルシウム濃度を調整する副甲状腺ホルモン(PTH)を測定したところ、上昇を認めましたが、腫瘍が産生するPTHに類似しカルシウムの濃度を上げてしまう副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)は検出されませんでした。PTHの過剰分泌が高カルシウム血症を引き起こしていると考えられます。
腹部超音波検査
左甲状腺に大きくなった上皮小体(6.3mm)を認めました(図の白矢印)
CT検査
上皮小体の腫大の確認と、カルシウム値を上昇させる可能性がある腫瘍が体内に存在しないかを確認するために行います。
左甲状腺に大きくなった上皮小体を認めました(図の黄矢印)が、他に腫瘍は存在しませんでした。
手術と経過
術式:上皮小体(副甲状腺)摘出術
上皮小体は左右の甲状腺に2つずつあります。手術時に左甲状腺の1つの上皮小体だけが大きくなっていることを目視で確認し、それを摘出しました(図の白矢印が大きくなった上皮小体)。病理組織検査の結果は「上皮小体腺腫」でした。手術後、ただちにカルシウム値が基準範囲まで低下しましたが、手術後59時間からは基準値以下になりました(低カルシウム血症)。そのため、手術後2か月ほどは、カルシウム値を上昇させるために活性型ビタミンD3製剤のアルファカルシドールというお薬を使用し、カルシウム値を管理しました。その後は、お薬が無くてもカルシウム値は基準範囲内に安定するようになりました。また、手術後は、手術前に認められた膵炎の症状は消失し、腎機能の指標となるクレアチニン値も基準値まで回復しました。
まとめ
原発性上皮小体機能亢進症はめずらしい病気です。腫瘍はとても小さく、肉眼的に発見することは難しいため、見落とされやすく診断が難しい病気かもしれません。しかし、カルシウム値の異常から他の原因の病気を除外したうえで、副甲状腺ホルモンを評価し、精度の高い画像検査により診断が可能となります。当院では過去6年に犬4例、猫1例の手術を行っています。全例、良性の上皮小体腺腫で、手術後の経過は順調です。そのうち、手術後の一過性の低カルシウム血症を認めたのは、ご紹介した1例だけですが、このようなケースもあるため手術後の管理には十分に注意が必要であると考えられます。
ご紹介したワンちゃんと同じような症状でお悩みの場合は、あすなろ動物病院にご相談ください。
当院の業績
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小島健太郎、小島早織、江成暁子、内海恵利 上皮小体摘出術の2年後に低カルシウム血症を認めた原発性上皮小体機能亢進症の犬1例 第28回中部小動物臨床研究発表会 (2019)
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小島早織、小島健太郎、江成暁子、内海恵利、宗像理沙 原発性上皮小体機能亢進症が原因と考えられた急性膵炎の犬の1例 平成28年度(公社)神奈川県獣医師会学術大会 (2017)