症例紹介

症例紹介4:犬 > 腫瘍 > 血管肉腫

犬の脾臓腫瘍(血管肉腫)

キーワード犬、腫瘍、脾臓腫瘍、血管肉腫、腹腔内出血(お腹の中の出血)、完治が難しい

「あすなろ動物病院」では、多くの飼い主様に病気のことを理解していただくために、来院されたワンちゃん・ネコちゃんの病気をホームページで解説しています。
この記事と似たような病気でお困りの方は、お気軽に当院までお問い合わせください。

このページでは、「犬の脾臓腫瘍(血管肉腫)」の症例を紹介しています。「急に元気がなくなり、呼吸が荒く、歩くのを嫌がる」という症状で疑われる病気の1つです。

かかりやすい動物

  • 中高齢(中央値10歳)
  • 大型犬(ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバー、ジャーマン・シェパード・ドッグ、雑種)
  • 雄の方がわずかに多い

患者さまの紹介

犬、ラブラドール・レトリバー、10歳、雌、体重27.9kg

来院理由:
今朝から急に元気なく立ち上がれず後ろ足がふるえ、食欲もない。

来院時の様子と診察所見

身体診察

起立できずに伏せの姿勢をとり、心拍数および呼吸数の増加、粘膜色の蒼白を認めました。

血液検査

軽度の貧血および血液中のタンパク濃度の低下を認めました。

X線検査および腹部超音波検査

画像検査から、脾臓の腫瘤と腹腔内(お腹の中)に液体を認めました。

腹腔穿刺検査

お腹の液体を抜き、液体の成分を調べるために行います。
液体の成分は血液でした。

動物の状態や検査結果から、脾臓腫瘤の破裂が原因による腹腔内での出血を生じたために、循環血液量減少性ショック(出血により全身に循環する血液量が減少したことによるショック)に陥っていると判断しました。まずはショックを改善する治療を行い、状態が安定化したら速やかに手術を行う計画を立てました。

手術と経過

術式:脾臓摘出術(脾摘)

2日間、ショックに対する治療をして状態が改善した後に、手術を実施しました。手術前のCT検査で、脾臓以外に問題がないことを確認したうえで、手術を行いました。開腹すると、すでに出血は止まっていましたが、脾臓に4.7cmの腫瘤とそれよりも小さな結節(しこり)を複数認めました。出血していた部位には大網(網状の臓器)が付着していました(図の白矢印が破裂していた腫瘤と大網)。脾臓を周囲の血管から切断し、全摘出を行いました。摘出した脾臓の病理組織診断は「血管肉腫」であり、手術時に出血を認めたことからステージ2と診断しました。

手術後は順調に回復しました。血管肉腫は悪性度が高く、転移しやすく、根治が難しい腫瘍です。病気の進行を遅らせる効果のあるドキソルビシンという抗がん剤を使用しました。5か月間は、健康状態を維持していましたが、その後、再発により、発症から190日で死亡しました。

血管肉腫のステージ分類

ステージ 進行状況
1 腫瘍の大きさ<5cm(破裂していない)、リンパ節・遠隔転移は転移なし
2 腫瘍の大きさ>5cmまたは破裂している、リンパ節転移あり/なし、遠隔転移なし
3 遠隔転移あり

まとめ

犬の脾臓血管肉腫は、症状に乏しく、突然の腹腔内出血により初めて気づかれることが少なくありません。また、手術で摘出してみないと、脾臓にできる血管肉腫以外の病気と区別がつきません。血管肉腫は発見時にはすでに転移していることも多く、がんの中でも悪性度が高く完治することが難しい腫瘍です。転移がなくても腹腔内出血を起こしていれば、手術後の生存期間中央値(余命を短い方から長い方に順にならべた時のちょうど真ん中の値)は3ヵ月程度と海外では報告されており、抗がん剤を使用しても病気の進行を遅らせる効果しかありません。国内のデータはほとんどありませんが、ご紹介したワンちゃんと同じ状況の調査を行い学会報告したところ、生存期間中央値は8カ月(範囲は8日~4年)、1年生存率(1年後に生存していた確率)は40%でした。この結果から、まずは出血によるショックの改善に努め、試験開腹のような緊急ではなく計画的な手術を行うことで、完治は難しくても高齢犬にとっては価値がある時間が作れるのではないかと考えています。

ご紹介したワンちゃんと同じような症状でお悩みの場合は、あすなろ動物病院にご相談ください。

当院の業績

  1. 小島健太郎、伊東輝夫、湯木正史、内藤瑛治、小島早織 腹腔内出血は脾臓摘出術の転帰に影響を及ぼすか? -プライマリ・ケア施設における脾臓腫瘤を有する犬 134例 第28回中部小動物臨床研究発表会 (2019)
  2. 小島健太郎、伊東輝夫、湯木正史、内藤瑛治、小島早織 多施設における犬の脾臓腫瘤134例の手術成績-脾臓血管肉腫と他疾患との比較- 第18回日本獣医がん学会 (2018)
  3. Kojima K, Itoh T, Yuki M, Naito E, Kojima S. Impact of hemoperitoneum on outcomes of splenectomy for canine splenic masses in primary care veterinary hospitals. The 8th Annual Congress of Asian Society of Veterinary Surgery (AiSVS) (2018)
  4. 小島健太郎、伊東輝夫、湯木正史、内藤瑛治、小島早織 腹腔内出血を認めた犬の脾臓腫瘤46例-多施設症例集積研究- 第95回獣医麻酔外科学会 (2017)

症例紹介一覧